人を大切にする経営のための会計(1)

※このコラムは、毎月月初に、本社にて社員に向けてお話した内容を文章にしたものです。


経営計画などを立て、それなりにきちんとした経営をしている会社では、通常、毎月の経営会議で月次のPLを見て、「今月は売り上げが計画比未達だ」とか、「利益は計画比何%達成した。その理由は……」という報告をしています。

当社でも、幹部の方には毎月そういった報告をしてもらっていますが、そのような報告にあまり長い時間をかけたことはありません。また、記憶している限り、私は社長になってから一度も「何が何でも計画通り売り上げを達成せよ!」というような指示や命令を出したことはありません。もちろん、目標を達成できなかったという理由だけで厳しく叱責をしたり、降格をしたりしたこともありません。

なぜなら、計画を達成できれば、それは幹部や社員の皆さんの手柄であり、未達になり万一赤字になれば、それはすべて社長の責任であると考えているからです。これは、社長になってからそう考えるようになったわけではなく、中間管理職として部下を持って以来、私は常にそういう考えをしてきました。

自部署の業績が悪いのは、私のマーケティングが間違っていたせいかもしれませんし、部下をきちんと指導ができなかった私の責任だと思っていました。同様に、上司のせいにもしたことはありません。そういうメンタリティーで仕事をしてきたと思います。

売り上げと利益という二つの指標は、定量化しやすく、とても管理しやすいので、特に営業部門などではこれらを主要な指標として管理することが一般的であると思います。「なぜ達成できない!?」「どうやって、いつまでに達成するのだ!?」という感じで部下を問い詰めることが上司としての仕事の中心になっている会社はたくさんあります。私も経験がありますが、数字で追い込まれるのはとても辛いものですが、そういう厳しい目標をクリアして出世したような人は、それが成功体験になっていて、自分が部下を持った時に同じようなことをしてしまうのです。そういう管理の仕方を一方的に悪いことだと言うつもりはありませんが、問題なのは、売り上げや利益が目的化する傾向が強いことです。そもそも売り上げや利益を上げる目的は何だったのか、その目的がわからなくなることが多いのです。「顧客第一」を社是や社訓で掲げているような会社でも、お客様を大切にするという目的が、売り上げを上げるための手段にすり替わってしまうことがあります。そうなると、目先の売り上げ目標を達成するために、本来大切にするべきお客様のことを無視したり、部下に過度な圧力を加えたり、長年積み上げてきた信用を捨てたり、守らねばならないルールを無視したりすることが起こりやすくなります。

昨年、朝倉祐介さんの著書『ファイナンス脳』という本で、目先の売り上げや利益を最大化することを目的視する短絡的な思考態度のことを「PL脳」と名付けて、この「PL脳」に侵された経営が日本企業を蝕んでいると指摘しました。確かに、PL脳的な発想で経営判断をしている経営者が非常に多いのが実情ではないでしょうか。

しかし、私はPL脳的な発想になりません。なぜなら、私が財務のプロ(専門家)であって、この本に書いてあるような「ファイナンス思考」の考え方が染みついているからです。

財務のプロなどと偉そうな言い方をしましたが、当社のような従業員2~300人程度の会社には、普通財務のプロは存在しません。財務のプロを必要とするのは、財務戦略を考える必要のある相当大きな会社だけです。ですから、小さな会社では、経営者自身が財務の勉強をして会社を経営せねばならないのです。

財務の勉強とは、適正なお金の使い方を学ぶことです。しかし、ほとんどの経営者がPLにしか興味がありません。ところが、私が知っている限り、お金がどう使われたかは損益計算書(PL)のどこにも書かれてはいません。いくら使ったかという金額は書かれていても、それが経営理念を実現するために有効に使われたのか、新たなキャッシュを生むために有効に使われたのか、それとも無駄に使われたのかはわからないのです。現場を知り抜いている方であれば損益計算書を見るだけで、その中身が適正か無駄か見抜けるのかもしれませんが、PLばかり見ている経営者や管理部門の人にはわからないのです。そういう経営者ほど、意味のない予算管理をしたがります。やたらと予算達成にこだわり、目先の利益に一喜一憂し、予想外に利益が出ると大盤振る舞いをし、想定外に利益が落ち込むと必要なコストまで削って目先の利益を確保する傾向があるように思います。

多いのは、利益が未達になると、やたらとコストをカットする経営者ではないかと思います。これの何が問題かと言うと、キャッシュを生まないお金だけをカットするのではなく、本当は必要なコストまでカットする動きが出てくるからです。その典型が、「経費は〇%一律カット」などというまったくナンセンスな指示でしょう。一生懸命会計の勉強をした方でも間違った会計を学ぶとそういうことをすることもあります。これも私がよく言う努力逆転の典型なので気を付けてください。

大盤振る舞いするタイプの方は、とにかく税金を払うのが嫌で仕方がない方か、「幸福になるための努力」で幸福三説の話をしましたが、一つ目の「惜福(福をためること)」ができないタイプであると思います。そういう方は、見栄っ張りな性格であるように思います。

ウソのようなことですが、多くの中小企業では、経営者の「勘」や「運」、「意地」や「見栄」、「思いつき」や「好み」で会社のお金が使われています。若いころ、勘や運に頼った判断で成功した方は、「自分のカンピューターが一番信頼できる」などと言ってその後も客観的な判断をしなくなることもあります。織田信長が桶狭間で今川を奇襲した作戦などは、苦境を脱出するために勘に頼った判断の面も大きかったと思いますし、運が味方したことも事実でしょうが、信長の偉いところは、その後は勘や運に頼らず、徹底的に確率を重視した戦いをしていることです。

人を大切にする経営学会に加盟しているような会社の経営者は、謙虚なので「自分が成功したのは運が良かっただけです」などと言う方がいらっしゃいますが、ここで私が言う運は、本当に一か八かサイコロを振って経営判断をするようなことです。

また、意地にこだわる方もいます。信念を貫くという意味ならよいのですが、経営者の見栄やプライドだけでお金を使うこともあります。

思いつき型で多いのは、研修会に行ったり、成功している会社を見学したり、本を読んだりして、その会社でやっていることを自社に導入する場合です。十分検討もせずに「あの会社もやっていたからやろう!」と、ほとんど思いつきに近いかたちで指示をするケースが多いように思います。

オーナー企業などでは、経営者の好みだけでお金を使うこともあります。人間がやっている以上、やはり経営者の傾向性としての好みは出ますが、「自分の稼いだ金を何に使おうが自分の勝手だ」というような極端なお金の使い方をしていると、反作用が起きることが多いように思います。やはり「企業は公器」であり、節度が大事であって、本業に影響を与えるようなお金を経営者の趣味のためだけ使ってはいけないと思います。小さな会社では、そういう公私混同はいたるところにあります。経営者には色々なストレスがあるので、それを全部チェックすることは精神的に持たないところもあると思いますが、自分の見栄とか意地で使ってしまうことを正当化する習慣は避けた方がよいと思います。

ということで、今回から数回、会計の話をします。こういう話は、経営幹部や経理部門の人だけに話せばよい内容かもしれませんが、今年は新長期計画策定の年でもありますので、社員の皆さんも社長は財務的な視点でどういう経営しているのかということを知っていただく良い機会だと思います。また、業務上会計的な知識が必要になることもあると思いますので、何か参考になることもあると思います。

内容は、簿記会計的な話ではありません。世の中に出ている経理的な本の内容とは違うかもしれませんが、社員の幸福を実現するという経営理念を実現するために、財務の最高責任者として、私は会計に対してこう考えて経営を実践してきたし、これからもしていくつもりですという内容です。40数年間、財務のプロとして、様々な大企業、中小企業等で財務戦略を立案し実践し成果を検証してきたことを前提とした話でもあります。

 

1.「会計」の定義について

「会計」は事業活動を「見える化」する機能を持っています

経営者は、会社のお金を預かる立場にあることから、その収支状況を「見える化」して、国や株主などの関係者に説明するよう法律で決められています。

まずは、国に税金を納めるため、決算書(年次決算)を作成します。企業は世の中のインフラを使う立場上、税金を納める義務があります。そのために、決算書を提出し税金を納めなければいけません。これをきちんと行うのが経理部門です。そういう意味で経理部門がきちっとしていないと会社は成り立たないのです。

上場企業は、株主配当のため、有価証券報告書(四半期決算)を作成し提出しなければいけません。ご存知の通り、日産のゴーン会長が有価証券報告書に記載すべきことをしていなかったという理由で逮捕されましたが、そのくらい厳しい義務だということです。

そういった公的な目的もありますが、何より大切な「見える化」の目的は、経営の役に立てるためであり、経営に役に立つという意味で、最も重要な役割は、会社を潰さないことです(Going Concern)

いきなりですが、ちょっと考えてみてください。

どうしたら会社は倒産するのでしょうか?

赤字になるからでしょうか?法律に違反するからでしょうか?

実は、最終的な原因はひとつしかありません。

それは、資金ショートです。
私の勝手な分類ですが、資金がショートするのは赤字だけではなく、いくつかのパターンがあると思います。

1)急成長・急拡大に伴う資金ショート

第一に、企業の業績が急成長、急拡大した時です。ウソのような話ですが、黒字倒産はかなりの確率で起こります。売り上げを倍増しようと、社員をどんどん採用したり、営業拠点を全国展開したり、工場を増設したりしてお金が回らなくなるのです。

特に、経営者がPL脳に侵され、売り上げ至上主義に陥ると非常に危険です。なぜなら、売り上げをよく見えるようにするための数字づくりが日常化してしまうからです。押し込み販売や在庫調整など、本当は売り上げではないものを売り上げに計上したり、関係会社とキャッチボールをして売り上げを水増ししたりすることです。

また、実際の戦争などでも時々あることですが、戦線の拡張に補給体制(兵站)が追い付かないこともあります。本来、計画的に補給も用意してから戦線を伸ばすべきなのに、急成長することで補給が追いつかず、結果社員の酷使に繋がることもあります。業務拡大に伴い、キャパを超えて疲弊感でいっぱいになった社員が、離脱したり、手抜きや不正をしてでも成果をあげようとしたりするのでコンプライアンス違反も起きやすくなり、様々なほころびが出てきます。最近では、内部告発などによってそういったほころびがマスコミに報道され、それを問題視した銀行が資金の供給を止めるとあっという間に資金ショートしてしまうケースが散見されます。

2)急激な業績悪化による資金ショート

二番目に書きましたが、これは、一番典型的なパターンで皆さんもよくわかると思います。これもPL脳に侵された経営拡大策の破たんや無理な価格競争から生じることが多いと思います。デフレの影響もありますし、経済のグローバル化が進んで、大きな価格変動が起きやすいため、資金不足になる会社も増えています。

3)経営者が信用を失ったとき

上記とも連動しますが、経営者が異常な公私混同や、パワハラ、セクハラ、コンプライアンス違反等によって社会的信用を失い、取引先が取引を止めたり、銀行が資金供給を停止したりすると資金ショートが発生します。

4)天変地異や事故(トップの急死)等の突発事態が起きたとき

これは避けられないことでもありますが、一方で、そうしたリスクに備えて資金的にも備蓄し、後継者を育てておくなど、対策ができることでもあります。しかし、突発的なことにはなかなか対応できないことでもあり、資金ショートにつながることもあります。

 

会社を潰さないための財務会計

このように、いろいろな理由で資金ショートすることがあることを知り、財務的な備えをしておくことが大事です。以前の勤務先では、私が財務経理の責任者をしていた時に一時的に大赤字になったことがありましたが、その後は経営を立て直し、現在も隆々と経営を続けています。その時に、何とかお金さえ回れば、たとえ赤字になっても会社は潰れないことを、身をもって体験しました。極端なことを言えば、不渡りさえ起こさなければ何とかなるのです。だから当社でも絶対に手形や小切手は切りません。現金決済であれば、最悪、支払い期限を延ばしたり、リスケジュールしてもらったりすることで大丈夫なこともあります。しかし、手形や小切手を使っていると、2回目の不渡りで即刻アウトだからです。

しつこいようですが、赤字になると倒産すると思う人が多いのですが、赤字になってもすぐに会社は潰れません。しかし、払うべきお金が払えなくなると本当にあっという間に会社は潰れるのです。

したがって、会計の一番大切な役割は、資金の運用・調達のための会計です。この資金調達のための会計を財務会計(Financial Accounting)と言います。

これは、経営の最高責任者が学ばねばならない会計知識です。財務的な最終判断は、大きな会社では財務責任者CFOが担当しますが、小さな会社では社長自身か信頼できる家族が担当しているのが普通です。

ちなみに当社のCFOは私ですが、ほとんどの会社の社長は財務会計のプロではありません。多くの社長が税理士さんに相談したりしながら、先ほども申し上げた通り、かなり「勘」や「運」に頼ってやっています。その人の気分や性格が出やすいのがこの財務のところなのであり、結果的に会社を潰す原因を作るのも財務会計のところなのです。

 

会社を潰さないための管理会計

経営に役に立つという意味で、最も重要な役割は、会社を潰さない(Going Concern)ことで、そのためには、財務会計も大切ですが、経営者や実際に現場を取り仕切る経営幹部が、正確に経営実態を把握し、正しい経営判断をするための会計も非常に重要です。この経営判断をするための会計、つまり現場の経営に必要な情報を提供するための会計を管理会計(Managerial Accounting)と言います。これが、経営幹部が学ばねばならない会計知識です。

具体的には、財務三表(BS、PL、CF)や月次管理資料などを使って、業績を上げることです。そのためには、一時的な数字の上下に一喜一憂することなく、決算書を通じて経営の真実(実態)を見抜く知恵を身に着ける(学ぶ)ことが重要です。

会計は、ビジネスの実態を映し出す鏡の役割を持っています。しかし、財務三表などの決算書は、様々な理由で必ずしも会社の実態を正確に反映しているわけではありません。この鏡は経営者の心を映し出す鏡にもなります。経営者の心が曇っているとこの鏡は曇るのです。

したがって、他社の決算書を見るときには、決算書上の数字を鵜呑みにせず、決算書を読み解くことによって、経営の真実(実態)を見抜く知恵を身に着ける(学ぶ)必要があるのです。その第一歩が、財務三表の構成や内容を知り、その目的を理解しておくことです。

次回以降は、そのための基礎中の基礎の話をします。

主に、

  • ・財務三表(BS、PL、CF)の内容とその見方について
  • ・基本的な財務戦略について(あり方論)

という内容になります。